vol.42 2006年 3月 19日発行

鵜 匠
澤木 万理子 さん

宇治川の女性鵜匠
 京都、宇治川で鵜飼が行なわれていることはご存知だろうか。大正末期に復活した宇治川の鵜飼は、夏の風物詩として親しまれており、この川では、今回お訪ねした澤木さんを含め4人の鵜匠が、風流人たちの目を楽しませているという。女性の鵜匠は全国で3人しかいないとか。関西では澤木さんおひとりだ。

100日間しか観られない
夏の風物詩である鵜飼ですが、今も、宇治川で行なわれているとは、正直なところ知りませんでした。いつ頃から復活されたのですか。

澤木 今のかたちの鵜飼は大正の終りから始まったと聞いています。鎌倉時代に宇治川で殺生をしてはいけないということになり、鵜飼も途絶えてしまったようです。でも古くは平安時代の文献に登場していますので、鵜飼の歴史は古いです。

平安時代、風光明媚な宇治川沿岸は別荘地として貴族から愛され、源氏物語の宇治十帖の舞台にもなっていますね。また鵜飼は宇治川でも漁法として古い歴史を持ち、『蜻蛉日記』には天禄2年〈972年〉7月の条に、藤原道綱の母が、奈良の初瀬参りの際、宇治に宿泊し、かがり火をたいた数多くの鵜舟の様子を楽しんだという記述が残っていますね。

澤木 はい、そうです。そのほかにも『宇治関白高野山御参詣記』(永承3年〈1048年〉)には、藤原頼通が高野山参詣旅行にわざわざ宇治の鵜匠や鵜舟を随行させていた事が著されています。

さすが、平安時代ですね。
きっかけは『おもしろそう
なぜ、鵜匠になろうと思われたのですか。

澤木 もともと、鳥が好きだったのですが、初めて鵜飼を観た時に、「おもしろそうやってみたい」と思ったのがきっかけです。

しかし、本当に飛び込んだ鵜匠の世界は、観るのと行なうのでは、まったく違ったのではないですか。

澤木 違いました。鵜匠の仕事は、川で鵜飼をするだけではありません。鵜の飼育も、また練習も、それから舟を漕ぐことも学ばなければなりません。それに、今は年間を通して鵜飼のために動いていますが、何年か前は、夏の期間のみ、鵜飼にあわせて鵜匠が集まり、舟も川に浮かぶという感じでした。ですから、私がこの世界に入った当時、練習はほとんど、本番にしていました。

本番中に学んでいったということですね。

澤木 はい。先輩が、本番中に、「やってみるか」と綱を渡すのです。最初は2羽くらいから。今は6羽を扱います。
鵜飼の難しいところは…
鵜はすんなり、澤木さんの指示を聞きましたか。

澤木 簡単には行きませんでしたね。鵜はなかなか気が荒く、その上神経質なのです。よくかまれました。よい言葉ではないですが、いわゆる鵜飼は、鵜の上前をはねるのです。鵜は大好きな魚を見つけ飲みこみます。でも首の部分をヒモでくくられているので、お腹まで飲みこめないのです。

ストレスがたまりますね。

澤木 そうだと思います。ですから、いくつかのうち一匹、二匹は鵜に渡します。

分け前ですね(笑)。でも、そうすることで、鵜との信頼関係ができてくるのではないですか。パートナーとしての…。
鵜飼はチームワーク
澤木 おっしゃるとおりです。鵜飼はチームワーク。鵜匠と、船頭と、鵜の気持ちがひとつにならなくては、お客様に喜んでいただけるものはお観せできません。特に宇治川では、鵜匠の乗った舟が観覧船の周囲を回りながら鵜飼を披露するので距離が近く、青い目、尖ったくちばしを持つ鵜の顔や、魚を飲みこむ時の1、2秒の早業も間近に見られ、臨場感ある鵜飼を満喫することができますよ。その分、私たちは緊張もしますね。

風折烏帽子に、袖を絞った黒い着物と腰蓑という伝統装束に身を包んだ鵜匠が、鵜を自在にあやつって鮎を狩る様を、舟に掲げられた松明で照らされ、いにしえの情緒を醸し出して、観る人を幽玄の世界に誘うのでしょうね。きっと、古典絵巻の平安貴族さながらの気分になるのでしょう。

澤木 腰蓑は水よけです。ちょうど今日、先輩にお願いしていた今年の腰蓑ができてきたところです。鵜匠は夏に向け、シーズンオフにいろいろな準備をしていくのです。

あの烏帽子にも何か意味があるのでしょうね。

澤木 烏帽子は長方形の麻布でターバンのように巻いています。よく、もともと三角の形のものをかぶっているように思われますが、違います。着物同様、松明近くでの作業ですので、火の粉から身を守る為の物なのです。
技を引き継ぐ仲間を増やしていきたい
いわゆる伝統文化でもある鵜飼ですが、その技を学び、後世に引き継ぐプレッシャーはないですか。

澤木 正直なところ、今はまだ、そこまでは感じていません。しかし、残していかないといけない文化だと思います。かといって私だけではどうにもできないというジレンマはあります。実際、船頭を、熟練した先輩の鵜匠が変わるがわる担当しています。それは船頭の腕前が鵜飼には一番重要だからです。そういう部分からも、学べる今のうちに、鵜匠のなり手を増やしていくことが必要だと思います。

現在、宇治市観光協会職員である澤木さん。この夏も多くの人たちを幽玄の世界へと導くのだろう。
宇治川の鵜飼 6月中旬〜9月下旬 問い合せはTEL:0774-23-3334(社)宇治市観光協会

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