vol.41 2006年 1月 8日発行

奈良県立図書情報館 館長
国際日本文化研究センター教授
歴史地理学者
千田 稔 さん

奈良の情報収集発信基地
〜奈良県立図書情報館〜
 昨年2005年の11月、奈良市大安寺西町の佐保川沿いに、奈良県立図書情報館が開館した。55万冊の蔵書という規模を持つこの施設は、今までの図書館というイメージを一新し、オープンな外観からも想像できる、明るく広々とした建物。
 この図書情報館の館長に就任された歴史地理学者の千田稔さんをお訪ねした。

1日2000人を越える利用者!
あらためまして、奈良県立図書情報館開館おめでとうございます。千田さんは歴史地理学の第一人者として数々のご活躍をされていますが、またひとつ、この斬新なステージで館長としてのご活躍が期待されていますね。お忙しいのではないですか。

千田 おかげさまで、いろいろな経験をさせていただいています。この図書情報館は、今までの奈良のイメージとはまた違った機能を持つところです。例えば、2階の『アトリエ』ではDTP等が使えるソフトをインストールしたパソコンを自由に使用でき、『オーサリングルーム』では映像編集が可能な高機能を持つ情報機器を予約すれば誰でも使用(1時間350円)できるのです。初心者には操作方法を習得していただけるよう、『簡単パソコン教室』なども昨年12月には開催しました。

本を読むところ、本を借りるところという今までの図書館とはまったく違うイメージですね。

千田 もちろん、貸し出しなどの、今までの図書館の役割も忘れてはいません。より探しやすく、閲覧できる冊数も増やして、親しみやすく、借りやすい、わかりやすいサービスを職員一同、努力しています。

奈良県在住・在職者以外の利用も可能だときいていますが、利用の傾向はいかがですか。

千田 12月の段階で1日あたりの平均入館者数が2000人を越えています。利用者カードを作る際にいただいている住所を見ると、県外からの利用者も多いですよ。いろんな方に利用していただいて、この館内が活気に溢れ、アイデアや情報交換などでいっぱいになるのはうれしいことです。
古代を知れば現代が解る
今、歴史地理学者として、一番こだわっていらっしゃるところはどこですか。

千田 東アジアです。日本の将来を考えると、どうしても東アジアにこだわってしまいます。日本のルーツが東アジアにつながるのです。よく、古代を押さえたら、その後の歴史を語ることができるとか、現代を語ることができると言いますが、それと同様に私は東アジアの歴史を理解しないと、今の日本は変わらないと思うのです。

それは歴史的にではなく、現在、日本がおかれている立場がでしょうか。

千田 どちらもです。とくに今はこのままではいけないと思います。政治家が考える東アジアと、研究者が考える東アジアは観点が違います。このままでは日本が孤立していくようで心配です。

そうですね、個人的に出会った東アジアの人たちは親日家が多いですよ。

千田 私の友人たちもそうです。だから、どちらの国の人も、出会う前に決め付けて判断するのではなく、どんな時も、お互いに話し合って理解し合うべきです。それは物事を考える時、すべてにおいても言えることだと思います。

視野を広めるためにも、この図書情報館が役立つわけですね。土地・地理を知ることで、その街の文化を知るとも言いますが奈良県の郷土資料も多く蔵書されているのですか。

千田 もちろん、たくさん蔵書しています。3階ふるさとコーナーでは、奈良県関係の資料、約6万点が閲覧できます。その土地や地理を知ってこそ、その人の背景を知り、その人を知ることができます。特に私たち研究者は、その時代の地形や地域づくりの構想などを見て、その時代の人たちを想像していくのです。この図書情報館を利用する人も、情報収集から、インターネットを使用しての分析など、施設内をフル活用することで、未来につながる何かを生み出すことができるのではないかと思います。
飛鳥時代は国際的に大らか…
先ほどの東アジアのお話ですが、日本は大陸とつながっていない、海に囲まれた国という点で、古代の時代から孤立し、往々にして弧高癖があったという方が正しいのではないでしょうか。もちろん使者などの出入りはあったでしょうが…。

千田 飛鳥時代の方が、今より国際的で、東アジアの一員という大らかさがあったのでないでしょうか。例えば聖徳太子。今、太子論については諸説がありますが、聖徳太子は世界的な平和を考えていた人だったのではないかと思います。記録によると、聖徳太子がまだ斑鳩に入る前のことですが、二度ほど海の向こうに出兵をさせられるのです。しかしなんらかの理由をつけて途中で戻ってきている。新羅仏教との関わりから攻めることは避けたのだと私は思います。

それは初耳です。聖徳太子にもそのような時代があったのですか。

千田 はい。ただ、その後の『日出づる国の天子…』というフレーズが相手の国には気に入らなかったのではないでしょうか。天子と勝手に名乗られても、相手の国にも天子と名乗る人がいるのですからね。

そういうことですか。このお話は本当に現代につながる話のように思います。
奈良の歴史を点から線につなぐ観光
奈良県と言えば、観光的に考えると古代・平城京の時代のものがクローズアップされますが、中世や近世についてはあまり話題が出てこないように思います。いかがですか。

千田 そうですよね、奈良県にも歩んできた歴史があり、中世・近世があるのです。私はもっとその時代も語るべきだと思います。例えば、江戸時代は奈良より郡山の方が独自の文化活動が盛んでした。藩の持つエネルギーがありましたからね。

江戸時代にできた環濠集落も奈良の各地にまだ点在していますよね。また、奈良町や今井町など、街単位ではいろいろな展開をしていますが、線で結んでいないのです。それは歴史的な時代区分によるものでしょうか。

千田 私はツアーの企画なども年代表にそってやれば良いのにと思っています。古代に執着せずに、中世・近世にも焦点をあてることが、これからの奈良の観光にとっても良い手段だと思うのですが。

点ではなく、線にするということですね。

千田 そうです。線にすること、これからの観光戦略として考えていってほしいですね。

奈良を愛する人として、また奈良を心配する厳しき研究者として、お忙しい中、お話を聞かせてくださった千田さん、ありがとうございました。多くのニーズに答える機能を持ち、さまざまな展開が期待できる奈良県立図書情報館、今後が楽しみです。

奈良県立図書情報館(奈良市大安寺西1丁目1000番地 TEL.0742-34-2111)開館時間 : 9時〜20時。
休館日 : 月曜日(祝日に当たる時は次の祝日でない日)・毎月月末(月曜に当たる時はその前の平日)・年末年始。

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