vol.37 2004年 12月 19日発行

チェンバロ奏者
中野 振一郎 さん

『世界の9人のチェンバリスト』
の一人
〜古楽器チェンバロで
新鮮な響きを奏でる〜
 バロック音楽の流行とともに、古楽演奏に欠かせない楽器として注目されてきたチェンバロ。楽器の修復、再現、新造が積極的に行われているようだが、世界的にもプロとして活躍する奏者は他の楽器に比べ少ないという。そんな中、1991年、フランスの「ヴェルサイユ古楽フェスティバル」で『世界の9人のチェンバリスト』の一人に選ばれた他、近年特に注目を集めているチェンバロ奏者・中野振一郎さんが奈良の方だと聞き、是非にとお願いして、お話をうかがった。

斑鳩で毎年演奏会を開催
毎年、斑鳩町のいかるがホールで演奏会をされていますが、何年くらい続けてこられていますか。

中野 いかるがホールが平成9年にオープンしていますから、それからずっと演奏会をさせていただいています。いかるがホールの小ホールはチェンバロの演奏を聞いていただくのにとても素晴らしい空間です。音響もいいし、なによりサロン的な感じの規模なのです。そのうえあのホールにはすばらしいチェンバロがあるのですよ。

チェンバロがあるということから、中野さんと斑鳩のご縁が始まったのですね。


中野 そうです。いかるがホールでアルバム『J.S.バッハ/チェンバロ協奏曲集』の録音もさせていただいたのですよ。

それはすごい。斑鳩町在住の私にとって、誇らしくなるお話です。
長い歴史を持つチェンバロ

ところでチェンバロの起源はピアノより古いとのことですが、どういうものか教えていただけますか。

中野 ひとことでいいますと、ルネサンスからバロックにおよぶ長い歴史を持つ、弦をはじくことによって音を出す鍵盤楽器です。鳥の羽軸などを楔型に削った「爪」で弦をはじくことで音を出す仕組みになっています。

それでは、チェンバロとピアノの違いは、チェンバロは鍵盤とつながった爪で弦をはじく構造であるのに対して、ピアノは弦をハンマーで叩くという仕組みだというところですね。

中野 その通りです。チェンバロは撥弦楽器で、ピアノは打弦楽器なのですよ。実はチェンバロは国によって呼び名がさまざまで、フランスではクラヴサン、イギリスではハープシコード、ドイツではチェンバロと呼ばれています。

ロココ調好きな幼稚園児

中野さんとチェンバロとの出会いはいつ頃ですか。

中野 幼稚園の頃です。

ということはご両親など、周りのかたの影響からですか。

中野 それが違うのです。もともとクラシック好きな親の意向で、3歳からピアノは始めていたのですが、幼稚園に通っていた頃に、街の楽器店でチェンバロのデモ演奏を聴いたのが始まりです。チーンという音色に魅了されてからというもの、その古楽器が流行っていた時代にしっかりはまっていったのです(笑)。ロココ調が好きな子どもに…。

ロココ調が好きな子どもというと、どのような幼少期を過ごしてこられたのでしょうか。


中野 小学校に入学する前から平安王朝絵巻などを真似て、雅やかな絵を描いていたのですよ。その頃は京都に住んでいましたから、葵祭などで衣装を見たことがあったせいでしょうか。物理学者だった父親はどんな事でも、時代考証をきちんと考える人でしたのでその影響もあってでしょう、ファッションなどにも子どもなのに忠実だったのです。

ファッションもですか。

中野 はい。ロココやバロック時代のファッションといえばカツラです。スーパーの白い袋に綿をつけて、バッハみたいなカツラをつくって弟にかぶらせたり、「今日は18世紀の頃のようにローソクだけの生活をしてみよう」とごっこ遊びをしたり、通っていたミッション系の小学校でもバロックごっこを流行らせましたね。ピアノの先生には18世紀のバロック音楽を課題曲にしてほしいとねだり、練習していたり、とにかくけったいな(笑)子でした。

奈良を起点に世界で活躍
中野 小学校6年生の時にチェンバロを買ってもらってからというもの、ますますバロック音楽が好きになり、高校に行く頃には音楽の道を突き進もうと思っていましたね。絶対に誉めなかった父が、そんなに好きなら「好きにせぃ!」という感じでした。

お父様は中野さんの才能をわかっていらしたのですね。


中野 おかげで毎週末は東京でのレッスンを受けさせてもらい、東京の大学で古楽器を専攻し学ばせてもらいました。

卒業とともに奈良にお戻りになったのですよね。

中野 はい。音楽の世界には留学などの道もありますが、古楽器、チェンバロにおいては特に海外にわざわざ出向いても、学ぶものはないと判断したからです。もちろんヨーロッパなどは、バロック音楽が生まれ流行っていた時代の場所がいたるところにあり、貴族の優雅さなど、空気を感じられますが、やはりあの時代の音楽はそこにはなく、チェンバロが今の時代の音楽になっている以上、日本を起点に活動しようと思ったのです。

チェンバロが古典楽器でありながら、新しい音楽、楽器だということでしょうか。


中野 それだけまだ、チェンバロの音を聞いた事のない方が多いということでしょう。私は多くの人にチェンバロの美しい音色を知っていただきたいと思っています。演奏活動をするにあたって特にこだわっている事があります。すべてのことについて言えることですが、最近の世の中の風潮として、時代考証がずれていたとしても、「雰囲気ええやん」「きれいやったらなんでもええやん」というところがあります。しかしそれがすべて良いとは思えないのです。ですからひとつの音楽でも時代考証をきちんと考えて演奏することを怠らないようにしています。

学者であったお父様ゆずりのこだわりを持つ中野さん。これからもご活躍をお祈りしています。


Vol.36