VOL.36

小説家
松村哲秀さん
第16回自由都市文学賞受賞
〜斑鳩で学習塾を主宰しながらの執筆活動〜

 堺市が1989年の市制100周年を記念して創設したのが自由都市文学賞。16回目の今回、31都道府県、海外7カ国から284点の応募があり、その中から斑鳩町在住の松村哲秀さんが見事、小説『弥勒が天から降りてきた日』で受賞した。
 松村さんは学校の講師や、学習塾を主宰するかたわら、小説の世界にも没頭。これからも二足のワラジをはいて行きたいと話す。

東大寺学園の先輩後輩
 『第16回自由都市文学賞』受賞おめでとうございます。私も東大寺学園の後輩としてとてもうれしく、ぜひお話をうかがわせていただきたいと今回のインタビューをお願いした次第です。
松村 ありがとうございます。同じ学校でしたが、4歳違いですので、学生時代には話す機会はありませんでしたからね(笑)。
 ほんとうに。中学、高校6年一貫教育の学校で同じ町内からの通学でしたからどこかですれ違ってはいたのかと思いますが、お話させていただくようになったのは大人になってからでしたね(笑)。ところで『自由都市文学賞』とはどういうものですか。
松村 大阪の堺市は中世、自由都市として全国の文化の中心として栄えたと言われています。その堺市が市制100周年を記念して、文学の振興を通じて都市文化の高揚を図ろうと新人作家による未発表の短編を毎年公募しているのが『自由都市文学賞』です。今年で16回目かな。
学習塾と小説の関係
 小説は、ずっと前から書いておられたのですか?
松村 書き始めたのは7、8年前です。もともとミステリーが好きで、本はよく読んでいましたね。執筆は夜に冴えてしまった頭がきっかけかな。
 と言いますと?
松村 学習塾を主宰していますので、授業が終わるのは夜遅く。頭が冴える夜が多かったのです。最初は教育論文を書いてみようと思ったのですが、その後、小説に変わったのです。論文よりも小説はいろんな人に読んでもらえるでしょう。
 松村さんは高校の教師をされていたのでしたね。
松村 はいそうです。大学卒業後、会社員を経て大阪の小学校、高校で教鞭をとっていましたが40歳で退職してから学習塾を始めたのです。教育現場にも中と外とではいろいろな矛盾があります。制度等が変わっても現場がついていけないところもあるのです。そんな矛盾と思える事柄も含んで書いたのが今回の短編小説です。
「スピード感のある文章で小気味よかった」と賞賛された作品
 今回の受賞作品、小説『弥勒が天から降りてきた日』、読ませていただきました。高校生の主人公と、周りを取り巻く家族や教師、友だちやその家族の、それぞれの考えや行動が、想像の世界で広がりました。読者対象はどのくらいの年齢で考えられたのですか?
松村 青春小説ですが読者の年代はあまり意識しないで書きました。どの人にも学生時代、青春時代はあります。ですから設定した小説の風景は誰にでもすぐ想像できるものだと思うのです。
 確かにそうです。特にこの小説は「うっかり読みきった」というのはおかしい表現かもしれませんが、途中で気が抜けない感じでいっきに読んでしまいましたよ。
松村 選考していただいた田辺聖子さんからも「スピード感のある文章で小気味よかった」などの言葉をいただきました。
 このような内容はスラスラと出てくるものなのですか。
松村 スラスラと書いたものは少ないですね。私は特に気の向いた時間に書いています。空いた時間にと言ったほうがいいかもしれませんね。ですから途中で止まってしまうこともあるのです。実際、あらすじ的なことを考えてから執筆に入りますが、長編になるとだんだん考えていた事から逸れていく事もあります(笑)。
 しかし柔軟に内容を変えていくのも創作活動には重要なポイントではないでしょうか。どんなことでもやっているうちに新しいアイデアが浮かんできて、そちらの方が良ければこだわらずに良い方向に進むという柔軟な姿勢や考えは必要だと思います。
結末がわかる作品はおもしろくない
松村 はい本当にそうです。私の作品を読んでくれる友人がいるのですが、その友人がまた厳しい批評家でして、書き始めたころに言われた事があります。「着地先がよめる(わかる)作品はおもしろくない。着地点は決めない方が良い」というのです。
 趣味で書く自分の作品ではなく、読み手を意識した、読み手を楽しませるものが小説だということですね。
松村 小説はエッセイであってはいけないのです。作家の意見を直接ぶつけるものではないということです。
 主人公が作家自身であってはいけないということですか。
松村 主人公だけに語らせるのではなく、登場人物全員に語らせないといけないのです。
 それぞれの立場で、それぞれの考えがある、正しいと思う結論を出すのは読者だということですか。
松村 そうです。正しいか正しくないかは読者によって変わってくるものだと思うのです。
 ではそのテーマやアイデアはどんな時に浮かんでくるものなのですか。
松村 生活の中で気になったことはメモしています。友人からの刺激もありますね。そのメモの中からあっちとこっちをひっつけて考えていくという感じで生まれてくるのです。私の場合は、結構、ボヤーとしている時に浮かんでくるものです。
今、書きたいテーマがいくつもあると松村さん。小説家か教育者かという一本の選択はしないと話す。「ひとつを選んだら、自分がギクシャクすると思うから」と。二足のワラジをはいたバランスが、今の松村さんの創作意欲を引き立たせるポイントなのかもしれません。次の作品も期待しています。

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